任意後見では足りない―「死後」を託せない制度の限界

m-yano

高齢期の備えとして「任意後見制度」の利用を検討する人が増えています。

判断能力が低下した場合に備え、信頼できる人に財産管理などを任せる制度ですが、任意後見を利用すれば死後のことまで託せる、と誤解されがちです。

任意後見は、本人が存命中であることを前提とする制度で、その効力は本人の死亡によって終了します。

つまり、葬儀や納骨、住居の明渡し、各種契約の解約といった「死後の事務」は、任意後見人の権限外となります。

一方、「死後事務委任契約」は、本人の死亡後に行う事務をあらかじめ特定し、第三者に委ねる契約です。医療機関や施設との精算、行政手続、関係者への連絡など、相続とは直接関係しない実務を託せる点に特徴があります。

単身高齢者の場合、これを定めておかないと、実際に手続きを行う人がいなくなる事態が生じます。

両者を混同したまま準備を進めると、「任意後見を結んでいたのに、亡くなった後は誰も動けない」という空白が生まれます。

これは制度の欠陥ではなく、目的の異なる制度を使い分けていないことによる問題です。

高齢化が進み、家族構成が多様化する中で、老後の備えは一つの制度で完結しません。任意後見は生前の支援、死後事務委任は死後の実務。

両者の違いを正確に理解し、必要に応じて組み合わせることが、現代の相続・高齢者法務における現実的な解決策となっています。

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矢野 元美
矢野 元美
弁護士
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